T.F.W interview 3
日本を代表するセレクトショップ「SHIPS」の営業企画部高梨勝央様にインタビューさせて頂きました。SHIPSは1975年創業からセレクトショップという業態を日本でメジャーにしたアパレルメーカーです。
インタビュアー:菅野充/THAT’S FASHION WEEKENDプロデューサー
菅野:本日はお時間ありがとうございます。いつもビーチクリーンなどのSNSでの投稿を楽しみに見させてもらってます。まずは個人的な質問ですが、高梨さんがファッションを好きになったのはいつ頃だったんでしょうか?
高梨:洋服を親に買ってもらうのでなく自分で買うようになったという視点でいうと、1番最初は小学校5.6年の時にNIKEのバッシュを買いました。それはもうめちゃめちゃお願いしてお小遣いをもらって近所のお店に買いに行ったのが、ファッションとして欲しいと思った物の1番最初ですね。そこから中学生になって自分の好きなファッションが分かってきて、高校生になって欲しい物を自分で買えるようになって、その時くらいからですかね。
当然それまではお小遣いやお年玉の範囲でしか買えなかったものが、高校生になると欲しい物を買うためにバイトをして買うことができるようになって。僕が高校生の時の流行りは完全に渋カジで、アメリカ製の物、デニムやビンテージ物が流行ってましたね。
ビーチクリーン活動について
菅野:早いうちから敏感な少年だったのですね。いつもビーチクリーンをされてますが始めたきっかけをお聞かせ頂けますか?
高梨:これは良い偶然が重なっているんですが、SHIPSって昔から環境に配慮した活動をいろいろしているんですよね。
これは僕の話なんですが、学生の頃に下田に家を借りていて週末別荘のような感じの遊び場があったんです。それをきっかけに大学4年の夏にバイトとして下田にあるカフェで約1か月間住み込みで働いていました。その後SHIPSに入って社員になると半年でプレスに異動になったんですね。
ちょうどその年からSHIPSが下田のライフセーバーたちのサポートをすることになっていて、もともと自分が下田にいたこともあり知り合いもいたので自分が担当することになったんです。それがもう26年前の話ですね。
当時から下田の海では、ライフセーバーたちが海の安全を子供たちに教える活動の中で毎日ビーチクリーンをしていました。海に遊びに来ている遊泳客の方にも呼びかけをしてみんなで10分間ごみ拾いをするんです。これは今でもずっと続いている活動で、それが1番のきっかけだと思います。
今はプラスチックが問題になっていますが、20年ほど前は紙の使い過ぎが問題になっていたんです。今みたいに再生紙が安くなくて、新しい紙を作るにはどんどん伐採をしなければいけなかったんです。SHIPSってアメリカ物が原点なので、アメリカ製の再生紙で紙袋を作ってみたりそういった取り組みもしていました。
こういったSHIPSの取り組みを元に環境のことを考えるベースが自分の中に出来上がっていました。そんな中で海の近くに引っ越してきて都会と違ってやることもそんなにないので、週末にビーチクリーンをすることにしました。
それこそ最初はサーフィンに行ったついでにちょっとごみを拾ってくるくらいだったんですが、特に今は在宅勤務が週に1回あるのでその時間を有効活用しています。自宅から都心にあるオフィスまで1時間半くらいかかるんですよ。この時間を睡眠に使ってもいいんですが、いつもと同じペースを崩さないためにも出社時間を利用してビーチクリーンするようになりましたね。なので、コロナを機に浮いた時間をよりビーチクリーンに使えるようになりました。
あとは海は綺麗な方がいいなってところですね。サーフィンも釣りも好きなんですが、僕はどちらかというと海が好きなんですよね。下田の海はすごく綺麗だったんですが、それに比べると鵠沼海岸の海ってちょっと汚いので少しでも綺麗になったらいいなと思います。綺麗な海の写真を見ることで、誰かがこの海をキレイにしておきたいと思ってくれたら嬉しいですね。
SHIPS 営業企画部高梨勝央様
サステナブルの付加価値
菅野:今回のイベントテーマがサステナブルなんですが、僕自身実際にサステナブルな活動をたくさんしてるかと言われるとそうは言い切れないです。多くの企業さんも、社会の方向性がサステナブルに向いているためを取り入れていかなければと考えていると思います。そういった中で、SHIPSさんはどのような思いでサステナブルな活動を始められたんですか?
高梨:いわゆるサステナブルっていう言葉だけでいくとその言葉が出てきたのがSDGsが制定された辺りからなので、取り組みだしたのは3年ほど前からです。今はサステナブルという言葉でまとまってますが、それまでは純粋に「エコ」だとかそれに近しい言葉がいろんな形であったと思います。なので、エコや自然を守るという活動でいえば、25年以上前から取り組んでいました。ただ、商品そのものを環境に優しいものにすること、商品を売って得た利益をそういった活動に充てること。いろんな形があるじゃないですか。
例えばオーガニックコットンひとつとっても今と昔では考え方が変化していて、昔は環境というより肌に優しいだとか人体にとって良いという言われ方をしていたと思うんです。今は生産に対して消費される水の量など環境に与える部分が普通のコットンとは違うので、持続可能という点でいうとオーガニックコットンを選んだ方が良いという考え方ですよね。今と昔では少しずつ考え方が変わってきてるんです。昔は企業的に言うとCSRという社会貢献的活動のなかでの動きだったんですが、3年くらい前からSDGsを軸に動くようになりましたね。
私はバイヤーでもプレスでもないので、サステナブルな観点でうちのブランドで出来ることは何かということを話し合いながら、SHIPSらしい商品として取り入れてもらっている状況です。商品に関してはうちのバイヤーたちの思いが強いです。
菅野:確かにエコっていう言葉は結構前からありましたね。サステナブルとか無駄をなくすとかそういった活動は最近のものだと感じていたのでこれは新しい発見でした。
高梨:捉え方が違うだけでエコとサステナブルの違いは、現代社会において1番の課題である”継続していくためにはどうしたらいいか”という考え方が取り入れられているかどうかだと思います。森や海を守ろうという考え方はおそらく何も変わりません。
企業が「持続可能」という考え方を取り入れた上で利益を生み出すことで数年後にそれが当たり前になる、それがサステナブルだと思います。昔はエコなことが付加価値だったと思うんです。この前のトークイベントの質疑応答で1番悩んだのが「サステナブルに付加価値がついたらもっと広まると思うんですが、どう考えていますか?」という質問でした。でも洋服屋からすると、元々はサステナブルが付加価値だったんですよね。そうなると、サステナブルな物なのにデザインがいいとかそういうことをするしかなくなります。でもこれでは本末転倒で、元々良いものを作っていたはずなのでそれにサステナブルという付加価値がつけば本当は良いんですよね。だからそこにまた付加価値をつけるならば、”モノ”ではなくサービスなど”コト”なのかなと思います。僕があの時1番言いたかったのは、サステナブルな物っていうことで勝手にコミュニケーションが生まれるっていう付加価値をすでに持ち始めているということです。このキーワード自体がコミュニケーションツールの1つになっている。今回のイベントもこのキーワードに対して人が集まってきていると思うので、彼らの集まりこそがサステナブルの付加価値だと思います。なので付加価値をつけてあげるというより、サステナブルであることで誰かと交流が生まれていく価値がもうあるんです。さっきのビーチクリーンやってますよねっていうのもそれをやっているからこそ生まれたコミュニケーションじゃないですか。~~のブランドの服を好きな人たちが集まってコミュニケーションが生まれるのと同じだと思いますね。
だからもうサステナブルは、それすら話さないような面白くない事柄ではもうないってことです。サステナブルについて話し合う人がいてコミュニティが作られるようなすごい大きい事柄になっていることはすごくいいなと感じています。
菅野:実際に活動されている方がサスティナブルを語るのと、担当だからやっているのとではやはり響き方が全然違いますね、、
高梨:いやでも僕はそれでもいいと思っているんです。仕事上やると決めたことをやっていくってことの方が究極進む気がします。15年前は紙が大事と言っていたのに、今はプラスチックの袋は有料で紙袋は無料ですよね。僕みたいに少し環境に関する何かをやっている人間は、こういったことでいちいちプロジェクトを止めてしまうこともあるかもしれないです。あまりそういうことは気にしない方が良いのかもしれないですけどね。
最近ストローがプラスチックから紙に変わりましたが、それくらいの頃から日本の海岸でストローが落ちてることがあまりなくなりました。これはあくまで僕がごみ拾いをしている地域の話なので、ほかの海岸のことは正直分かりません。僕が見かけるのは飲食店などでもらえるストローではなくて、紙パックについているような伸び縮みするストローですね。これはすごく落ちているんです。だから僕がごみ拾いをしている地域は流れ着くごみが家庭からでているものがほとんどだと考えられます。洗濯ばさみだったり調味料を新しく開けたときの栓だったり。
僕が思うのはごみを出すときにきちんとまとめて出されていれば、カラスにごみを荒らされたりしない限りあんなにごみは流れ着かないと思います。だから正直言ってごみ拾いは持続可能という観点でそんなにサステナブルじゃないと思い始めているんです。誰かがやり続けなければ持続しないじゃないですか。誰かがやるためにはごみ拾いをするとお金をもらえる仕組みを作らない限り絶対に成り立たないですよね。僕みたいに好きでやっているボランティアだけでごみがなくなることは残念ながらないので、ごみを出さないようにするしかないと思うんですがそれは無理だと思います。ただ僕がごみ拾いをしていて1番いいと思ったことは、世の中に流れている情報と違うことを知れるんです。
ごみ拾いをずっとやっていて季節によって流れてくるごみが変わることに気づきました。変わったものでいうとワッズっていって小さいプラスチックの筒みたいなものが結構流れてくるんですが、これ調べてみると、散弾銃の玉の中に入っているプラスチックだったんです。これは小田原や箱根で猟をされている方たちが落とした物だと思うんですが、禁猟の時期は流れてこないんですよね。
こういった知らなかったことを知ることができるんです。なので、何でもいいので仕事とは全然違うことをやってみたらいいと思います。僕はごみ拾いによってすごく視野が広がったと感じています。良いこと悪いこと、聞いたことが正しいかどうかは正直分かりません。でも聞いたことと違うことを見かけることもあるので、世の中に流れている情報は疑ってかかっていますね。
THAT’S FASHION WEEKENDプロデューサー 菅野充
SHIPSが推しているプロジェクト
菅野:面白いですね!自分の目で見るって大切なことですね、改めて気付かされました。
次の質問ですが、今SHIPSさんで推しているプロジェクトを教えて頂きたいです。
高梨:今は商品自体をサステナブルな物にしていくことはもちろん、紙袋にしたりバックヤードでもいろんなことをやっていますね。商品に関しての規律も増えていますが、まだ全商品がリサイクル品になることはないです。世の中が環境に優しい素材の物でないと売れないってなったらまた変わるかもしれないですが、今はまだそうじゃないですよね。なので、お客さんが欲しいと思う物を仕入れることもしています。ただ、オリジナルのものに関してはサステナブルな物の方が売れる傾向にあるので、そういった物は増えています。
もう一つ、ファッションに関係しないこともやろうと思っていて、プラスチックを減らしていくこともしています。あとは宅配ボックスのバッグのデザイン作成の手伝いもしています。これは不在配達が減ることによって、CO2の削減に繋がるという考えですね。下田のビーチクリーンもそうですがファッションに限らず、多方面から自分たちにできることを探していろんな企業さんたちと活動することを心がけています。
SDGsが掲げている17の目標が各社にとってきっかけになっていると思うんですが、これをどう解決していくのかを考えた時に海外で起きていること、というイメージが日本はすごく強い気がしています。例えば貧困って日本に暮らしていると実感することって少なかったじゃないですか。でも最近は子ども食堂だったり、じつは貧困を抱えている家庭が多いことも少しずつ分かってきましたよね。だから環境問題だけじゃないですね。環境問題ってすごくキャッチ―で洋服との結びつきもすごく大きいんですが、17の目標を一つずつ解決していくためにも様々なことに取り組んでいきたいと考えています。
SHIPSは事業規模より認知度が高いブランドなので、使えるところは使ってお客様に知ってもらえるきっかけになればと思っています。フランチャイズも代行もやっていないので、47都道府県すべてにあるわけじゃないんですけどね。
菅野:他の企業さんだと代行をやられているところも多いと思うんですが、SHIPSさんがやらないのには何か理由があるんですか?
高梨:これは1番の違いかもしれないですね。社長の考え方として、アパレルというより小売業で洋服を取り扱っているという形なので、自分たちが作ったものを知らない人に売ってもらうという考えがないんですよね。なので、卸しもなく代行もなくフランチャイズもなくやっています。自分たちの社員が自分たちのものを売るというスタイルですね。
菅野:なるほど。単純に売り上げを上げることや店舗を増やすことに走ることもできる中で、そうではなく会社の理念を貫いていて素晴らしいですね。消費者の求める物に合わせていくことは必要だと思うのですが、サステナブルを考えると今までと利益の取り方が変わってきますよね。
手間がかかるので利益を上げることの難易度が上がると思うんですが、そこはどう考えていますか?
高梨:僕はサステナブルな商品を売ることで利益が落ちることは基本的にはないと思っています。逆に言うと今サステナブルな物が流行っているので、同じ価格で出せるならサステナブルな商品の方が売れるかもしれないです。ただ、利益ではなく売り上げでいうと現状はサステナブルな商品の方が単価が上がるのは事実なので売りづらくはなりますね。今売れている安価なものに値段を合わせれば必然的に利益は落ちると思います。
でもこれは一過性なもので、15年前は再生紙ってすごく高かったんですが、今はもう普通の紙とほぼ値段は変わらないんです。今は再生プラスチックから作られた服ってめちゃめちゃ高いですが、数年後にはこれも変わらなくなるのではないでしょうか。僕たちは出来上がっているファッションブランドにサステナブルを足していく作業をしているので利益に関して圧迫感を感じているかもしれないですが、最初からサステナブルな服を作って販売している学生さんたちはそんなこと感じてないと思うんです。僕らがそう考えているだけで、実際はそんなことないんじゃないでしょうか。
THAT’S FASHION WEEKENDに賛同した理由
菅野:確かにそうかもしれないですね。最後に、今回THAT’S FASHION WEEKENDに参加して頂き本当にありがとうございます。ご賛同頂いた理由をお聞かせ頂きたいです。
高梨:随分前からいろいろお話させて頂いていますが、僕らも通常廃棄することはもうなくしていっているんですね。最低でもリサイクル素材として何かに使うだとか、そういったことは始めています。でもリサイクルしなくてもそのまま着ることも当然できるじゃないですか。それが2次流通的な形でオフプライスショップだったり、個人売買も含めて出てきてますよね。それが悪いとは思っていないですが、何か自分たちでできることを考えた時に僕らだけでチャリティなことをするって難しくて。皆さんでやりましょうって話が出て、全国各社じゃなくてもこれをきっかけにサステナブルが当たり前になったら面白いと思うんです。
1社だけで動けないことはたくさんあって他の会社と話したりもするので、ファッション業界ってほかの業界に比べたら横の繋がりがある業界だと思うのですが、事業として横に繋がるのってブランドごとに違った考えや予算、方針があるので難しいんですよね。だから事業として横に広がるためには誰かに入ってもらうしかないんです。
僕らが間に入ってくれた方をなるべく応援しないと誰も参入できなくなるので、みんなで解決することは難しくなると思います。だから繋ぐ人を大事にしたい、これが1番ですね。ぜひ成功させてほしいと思っています。
SHIPS
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THAT’S FASHION WEEKEND
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