表参道の骨董通りにショップを構える「IZA」の代表田中タキ様にインタビューさせて頂きました。IZAにはN°21、VALENTINO、 ALEXANDER McQUEEN、MAISON MARGIELA、NINA RICCI、LOEWE、CHLOEなど錚々たるハイブランドが並んでいました。
インタビュアー:菅野充/THAT’S FASHION WEEKENDプロデューサー
菅野:お忙しい中お時間を頂きありがとうございます。
いきなり個人的な質問ですが、前回お会いした時にタキさんには人を引き付ける魅力があってたくさんの方に愛されていると感じたのですが、それは天性のものなんですか?
タキ:自分のことって意外と自分自身じゃ良く分からなくないですか…?どうなんですかね、、でもあんまり人見知りもしないし人のことは好きだと思います。人間は日々変わっていくので分からないですが、今までの人生の中だったら今の自分が1番好きかもしれないです。もちろん肉体的なことや見た目のことを考えたら嫌ですよ?でも、そこを楽しめるように努力をし続けるっていうことですね。
ファッションを仕事にしたきっかけ
菅野:年齢を重ねていって今の自分が1番好きって思えるのって凄いことですよね!
ファッションの質問に移りたいと思いますが、ラグジュアリーなセレクトショップを始めようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
今回のイベントにはファッションの道に進みたい若い世代の人もたくさん遊びに来てくれると思っています。ファッションの道に進みたい若者に向けてどういったきっかけで今のブランドを始められたのかをお聞きできますでしょうか?
タキ:私はいわゆるバブルの時代に10代から20代を過ごしていてミラノやパリのブランドがずらりとあった時代だったので、その頃の憧れはとにかく海の向こうのファッションでした。私の中では海外ブランドがてっぺんでそれは小さい頃から変わっていないんです。ファッションの為に生まれてきたと思うくらい服が大好きで、働いている人が綺麗なのも昔から好きでした。
ファッションには大きく言うとファストファッションから私が扱っているラグジュアリーブランドまでいろいろありますが、私の場合は、海外の最先端モードをバイヤーとして買い付けたり輸入総代理店として日本の皆様にお届けするっていうのがミッションです。
菅野:僕が小さい頃テレビをつけるとファッション通信という番組がやっていて、ファッションと言えばパリコレやミラノコレクションなどヨーロッパの最先端のものが主流でした。
でも今の若い方ってファッションと言えばファストファッションだったり、タレントのD2Cブランドがメインなんですよね。正直これはあまり良くない傾向だと思っていて、時代は大きく変わったなと感じています。僕が小さい頃に憧れたイッセイミヤケやヨウジヤマモトのような世界的なデザイナーは日本からはもう生まれにくいと思っていて、そこに危機感を感じていました。
そんな中、ヨーロッパの素晴らしいものを日本に発信している方っていうのはすごく貴重な存在だなと思うんです。
タキ:おっしゃるようにファストファッションに比べると私たちが扱うブランドというのは全然高いわけじゃないですか。いまは1000円でどこまで満足できるか、500円で何とかコーデとかそういったファッションの楽しみ方なんですよね。
私は時代的なものもありますが、対して欲しいわけでもないものを安いからという理由で買うことよりも仕事を頑張って長く着られるものを買いたいという価値観なので今と真逆なんです。でも少しずつサスティナブルっていう感度の部分が重要視されるようになってきて、自分の本当に好きなものを長く大切に愛するっていうことが大事にされるようになってきました。結果的に私がずっと追いかけてきたものがサスティナブルに繋がっていたということです。
私は最初華やかな部分からラグジュアリーファッションに魅せられてきた人生なんですが、考え方もライフスタイルも変わっていないので時代が追い付いたのかなっていう感じですね。
菅野:確かに。1点の服に対する重みがファストファッションとラグジュアリーファッションとではあまりにも違いすぎますよね。
タキ:そうなんです。でもこれは消費者だけの問題じゃなくて、生産者側も今まで大量生産をしていかに安く作ってたくさん売るのかとか様々な問題や考え方があったと思うのですが、やっとコロナ禍によって人々が一度立ち止まって考えるようになって、いろんな意味で大きく変わっていくっていうのは私的には面白いタイミングに自分たちが立っているなと思います。高ければいいわけじゃなくて自分が欲しいものをいかに選択して、それを愛し続けられるかっていうこと。
これが私たちの今後のテーマなのかなと思います。
ファッションの仕事の魅力
菅野:すごく良いと思います。タキさんのやられているお仕事は華やかで誰もが憧れる仕事だと思うんですが、外から見てるだけじゃわからない仕事の魅力と大変な部分をお聞きしたいです。
タキ:どんな仕事でも大変だとは思います。まあでも1番極端な業務プロセスでいうとコレクションですかね。年2回春夏コレクションと秋冬コレクションが行われます。その間で開催されるプレコレクションとメンズコレクションがあって、コレクションは常に追っかけ追っかけで行なわれています。コロナになる前はファッションウィークに合わせて年に8回、1年のうち120日以上を海外で過ごしていました。
私の体力的にもハードでしたが、カレンダーに合わせてそれだけのものをオーダーし、売り続けるっていうのは本当はサスティナブルじゃないですよね。
でもブランドとの契約ごとがあって精神的にハッピーじゃない中でそれをずっとやり続けているんです。さっきの話と矛盾するんですが、たくさん売ることがファッション業界のスタンダートなルールでした。
だからこの新しい場所に立っている今を機にそれが変わっていったらいいと思います。みんなが着地点を見つけて妥協や矛盾や目標と戦いながら、みんなで見つけていく世界になれば理想ですね。ファッションショーって今デジタルになるのかリアルになるのかいろんな意見があるんです。
デザイナーという神さまに選ばれた天才が命をかけて作っているのがコレクションで、後ろにはすごい数の人が働くメゾンがあってトップモデルがいてステージの演出の人がいて、トップオブトップの人たちが果てしない努力をして15~20分のステージを表現する。私はあの世界が絶対になくならないでほしいなって思っています。オリンピックにみんなが感動するのと一緒でみんながファッションにつぎ込んだ数分間のステージっていうのは結局夢とか希望とかそういうことじゃないですか。ファッションウィークの期間、現地に行けるものしか味わえないものだと思います。やはり私はリアルが好きです。
菅野:コレクションの内側に自分が入る、ファッションショーを生で見られるっていうことは誰にでも出来る経験じゃないですし、やっぱり華やかで憧れますね。
タキ:デジタルになってより多くの人たちがオンタイムでコレクションを見られることは素晴らしいことだと思います。ライブでもなんでもそうですけど現場に足を運んで肉眼で見ないと掴めないものもやはりあると思っていて、だから私の仕事は皆さんを代表して1番前で見せて頂いて掴んだものをちゃんと商品にのせて皆さんにお届けすることが醍醐味ですね。最高の仕事です。
チャリティ活動について
菅野:最高ですね!今回私たちはチャリティとサスティナブルをテーマにイベントを開催します。最初にお会いした時にチャリティについて様々な活動をされている方なんだと感じたのですが、ピンクリボンだったりチャリティにそこまで情熱を注ぎこむきっかけや理由はあるんでしょうか?
タキ:最初にお会いした時にもお話したと思うんですが、ファッションもチャリティも私の考えでいうと一緒なんです。最初のきっかけは余命1か月の花嫁というタイトルで放送されていたリアルなドキュメンタリー番組でした。
花嫁の方はお亡くなりになったんですが、それをみたときになんかガツンと来たんです。私のベースはファッションで人をハッピーにすることですが、何か困っている人を助けることや自分が正しいと思う活動を援助し続けるということとは私の中では繋がっていて全部一緒なんです。だからこういうことを普段から意識していない方に説明したり理解してもらうことは簡単ではないかもしれないし、1個分かってる人は多分私と同じ思いを共有できるかなって思います。
暖かいものみたいなのが1番大事で、自分よりも人に与えていくことで1番ハッピーになるみたいなことなんです。サスティナブルなことも自分が川を汚した先に、汚れた川の果てに住んでる人のことや未来の子供たちのことだったりがあって。そういうことに意識を向けていることってすごくかっこいいと思うんです。ファッションもそういう考え方もすごくかっこいい、一緒なんです。
今自分イケてる!じゃないですけど、かっこつけるってすごく素敵なことだなと思っています。かっこつけてないとダメだよねっていう。こんな感じで大丈夫ですか?(笑)
伝えたいことを伝える、批判されてもやる
菅野:全然大丈夫です、最高ですね!前にタキさんからお聞きしたことで共感したのが、「伝えたいことを伝える方法」っていう話でした。真面目に伝えようとすると誰も聞いていないっていうのは結構あるあるですよね。本当に伝えたいことを伝えるとか、受け取る側が何を受け取りたいかとか。どんな失敗があって何を学んで、伝えたいことを伝える時のコツを得たのかを教えて頂きたいです。
タキ:そこはもう本当にいまだに試行錯誤していてベストっていうのは私もまだまだ全然わかっていないんですが、楽しいことと真面目なことをうまくバランスを取って演出するていうのは大事ですね。例えば、動物愛護でも意識が高くてもう分かっている人は自分から情報を取りに行くじゃないですか。まだ関心を向けている程度の人に対しては、自分から情報を取りに来るんじゃなくて情報を与えて差し上げてどれだけ伝わって意識を変えるきっかけを作れるかがチャリティイベントで1番大切なことです。興味のない人に興味を向けさせることって1番大変なんですよね。
でも、その人が好きなものやことに対してアプローチすれば、興味の種になるんです。その興味の種を植えていく作業が大切だと思います。
チャリティだとみんなが憧れるようなファッションアイコンや女優さんなど、そういった人が発信することで興味のなかった人が関心を向けてくれるんじゃないかなと考えています。私は社会活動家ではないので、ファッションをプラットフォームにしてサスティナブルなど社会課題を伝えていくお手伝いができればというスタンスで今はやっていますね。だから今、ファッションに対して世の中で問題になっていることをいかに正しく面白く伝えるか、それの試行錯誤ですね。
だんだんその輪が広がってきて応援してくれる人や力になってくれる人が増えてきてるので、自分のやり方はこれでよかったんだなと思います。大企業ではないのでみなさんのお力をお借りしてやりたいことを伝え続けたことで、賛同して一緒に取り組んでくれる人が増えて今日に繋がっています。
菅野:なるほど。これもタキさんの魅力だと思うのですが、友好関係もすごく広いですよね。
タキさんには一瞬で惹きつけられる魅力があるので羨ましいです。僕は商談でプレゼンしたり説明したりすることが多いので、どんどん固くなってきてるんですよ!笑
タキ:いやいや(笑)お酒飲んでいっぱい話して心を開いてっていうだけだと思います。もう若くもないので、そういう意味では若い人も偉い人も有名な人もフラットにお付き合いさせてもらってます。私が心を開きたくて開いてるので、相手にもそれが伝わるんじゃないですかね。これは意識してやってることじゃないのでわからないです。逆に私は砕けすぎているので羨ましいです!足して割ったらちょうど良さそうですね(笑)
菅野:本当にそうしたいくらいです(笑)以前チャリティ活動に対しての批判について話して下さったと思うのですが、良いことをしてるのに批判をされることがあるとお聞きしました。「それでもやるのよ」と話されていたことにすごく熱いものを感じたのですが、どんな経験をされてきたのかお聞きしたいです。
タキ:つい最近もぼったくりのパーティーをしてるって言われてたよ、と知り合いに教えてもらいました。会が有名になればなるほど、世間ではチャリティで儲けてると思ってる方はいつまで経ってもいらっしゃるなあと思います。シンポジウムでお水とマスクをギフトに乳がんについて話すだけだったら入場無料で会場費だけ払えばいいと思いますが、私はショーをやったりだとか華やかなことをやっているので、恐ろしい赤字なんです。でもそんなことは親しい人にしか言わないじゃないですか。
今話してしまいましたが、好きでそれをやっているわけだからそれは謳うべきじゃないですよね。
人は距離があればあるほど自由に判断するので、悪いイメージを持たれている方もいっぱいいるんだろうなとは思います。それですごく残念というか悔しい思いをすることもたくさんありますよ。でもだからこそ、もっと努力して世の中に広く理解して頂けるようなことをしたい。私が何を言われても全然良いんですけど、そうしていかないと支援者の方だとか駆けつけてくれる方がすごくたくさんいるのでそういう方たちに申し訳ないなと思います。
華やかなことをやるとしょうがないですね。でも落ち込みません。ひどいなって腹が立つだけで。こういう社会活動とか目立つことをしようとすると叩かれますね。でも私がいないところで悪口叩かれるくらい、うちのイベントも知名度出てきたんだなと思うと悪くはないです。
菅野:スーパーポジティブですね!
タキ:もちろん!ポジティブな人じゃないとチャリティなんてできないですよ。
今後の展望について
菅野:それは確かにそうですね。もうお時間が来てしまったんですが、最後に今後の展望とかタキさんがどのような人生にしていきたいかを聞かせて下さい。
タキ:サスティナブルやチャリティ活動は私がIZAをオープンしてから約20年間、意識してか活動してきたことなのでこれだけは何があっても私の命が尽きるまでやっていこうと決めています。
コロナで世界の価値観や世の中そのものが変わっちゃっていて、あまり先のことを描きづらいというか私自身もうまく想像できないというのが正直なところです。もともといい意味で行き当たりばったりなのが自分の好きなところなので、あまり長期目標は立てないでおこうと思っています。
こんな状況であっても柔軟に対応できることは私の強みの一つですね。ただ目の前に目標ができたら、それが1年後でも5年後でもその目標にめがけて突っ走ります。このやり方が私には合っているし、今の時代にも合っているのではないでしょうか。
今度、表参道ヒルズ1FでI Z Aの長期ポップアップストアを9/1から約4ヶ月間やるんです。
その名もI Z A with FRIENDSと言って私と親交のある”フレンズ”と一緒にさまざまな取り組みをします。同時に若い起業家の方たちにスペースを提供して何かサポートが出来たら、と思います。
サスティナブルなアイテムはもちろん、女性を応援したい思いを込めてフェムテックの取り扱いにも挑戦します。楽しみにしてて下さいね!
THAT’S FASHION WEEKEND
https://thatsfashionweekend.com
