2020年の9月、環境省の中で「ファッションと環境」のタスクフォースが結成されました。今回リーダーの岡野隆宏さんを中心とした4名のメンバーにお集まり頂き、環境省としての取組についてインタビューさせて頂きました。
インタビュアー:菅野充/THAT’S FASHION WEEKENDプロデューサー
菅野:本日はお忙しい中お時間ありがとうございます。とても興味深い取組みだったため、このような貴重な機会を頂けた事に感謝です。限られた時間の中でいくつか質問させて頂きたいと思いますので、お付き合いよろしくお願い致します。
岡野:よろしくお願いします。
環境省「ファッションと環境」について
菅野:まず一つ目の質問です。環境省の運営されているサスティナブルファッションのサイトを見 たときに、若者向けでオシャレな作りになっていることに驚きました。 行政っぽくないですよね(笑) 目の肥えているファッション業界の人にも興味を持ってもらえるような、業界としてもサスティナブルを無視できないような打ち出し方をしているように感じています。 このようなテイストにしたことにはどのような意図があるのでしょうか?
金井塚:ファッションを楽しんでいる若者が多い中で、サスティナブルにまだ関心のない方にも今の現状を知ってもらうきっかけになればと思い、行政っぽくないページにすることを意識しました。
岡野:「行政っぽくない」は最高の褒め言葉です(笑)。

環境省がサスティナブルファッションに向き合う理由
菅野:環境問題でいうと環境省で取り組んでいる分野はたくさんあると思いますが、サスティナブルファッションをやろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
岡野:ファッションを切り口に見ると、環境問題の原因になっている社会問題、経済問題も含めて向き合えると思ったのが最初のきっかけでした。
環境問題には温暖化や水質汚染、ごみ問題、生物多様性など様々な切り口があります。今日に至るまで環境省として課題ごとに対応をしてきていますが、
それぞれの課題の原因を考えると産業や経済の在り方、社会の在り方に繋がっていて、今後はこれらと正面から向き合う必要があると感じています。
小泉環境大臣も、環境省が「社会変革担当省」として「課題対応だけではなく社会を根本から変えていく必要がある」とおっしゃっています。
ファッションは、環境負荷が多いだけでなく、人権などの社会問題も抱え、更に供給量が増加している一方で市場は縮小しているという現状もあり、ファッション産業には経済的な課題もあります。まさにSDGsの全ての問題が詰まっているのがファッションであると思ったんです。
大臣がよくおっしゃるのが、「ファッションは無関心でいられても無関係ではいられない」ということなんですが、誰もが身近で当たり前に触れているファッションを切り口に、環境問題を考えることが今後の未来に繋がると考えています。

サスティナブルと利益を出すことは対極にあるのか
菅野:ファッション業界に限らず確かに社会全体の問題ですね。SDGsが2015年から6年かかってやっと浸透してきて「サスティナブルをやらなくていい」と考えているアパレルブランドが少なくなった中、実際に行動に移しているアパレル企業が徐々に増えてきている印象です。
しかし売り上げを伸ばすことと地球に優しいことは対極にあると思うのですが、このバランスについてどう考えていけば良いとお考えですか?
岡野:私は必ずしもサスティナブルと利益は相反しないと考えています。
従来は環境にやさしいことはコストがかかり利益が減ると考えられてきましたが、近年はサスティナブルであることが成長につながるという意見もみられるようになっています。
日本のファッション業界も大量生産で価格をさげ、て物をたくさん陳列して人件費を減らしてきました。 大量に廃棄が出ても売り上げが出る今のモデルは、原材料単価と人件費を減らすことで実現しています。 それが環境負荷を増大させているわけです。
話がちょっと大きくなりますが、日本経済が伸び悩んでいるのは安売りをしすぎた結果、賃金が下がり、世界的に見ても給料が上がらない国になったのが原因であるのではないでしょうか。環境負荷ももちろんですが、経済モデルとしてももう限界なのではないかと感じています。
人件費は一般的にはコストと捉えられていますが、これを削減することは経済の基盤である購買力の低下に繋がっています。 人口も減っている現代において、今のモデルでは利益を出せなくなってきているのが現状です。
やはり、定価でちゃんと売れる社会を作っていくことが必要で、そうなれば人件費の問題も環境配慮の問題にも踏み込めます。重要なのは、は大量生産・大量消費・大量廃棄型の構造から適量生産・適量購入・循環利用型に転換すること。 再生素材はコストという声もありますが、サスティナブルを価値としてある程度しっかりした単価を付け、それを消費者も選ぶこと。それが、経済を持続的に継続させる方法であると考えています。
菅野:話の規模が大きくて最高です(笑)本当はファッションに留まらず、そういう社会全体の話を聞きたいと思っていました。
話をファッションに戻しますと、確かにそれはその通りだと思います。しかし日本の経済状況で考えると、若者が地球に優しくて定価で長く着られる服を選ぶことは経済的に中々厳しい状況ですよね。 ファッションに限らず、食に関しても安くて手軽な物が選ばれているように感じます。というよりも低賃金で生活しているため選ばざるを得ないようにも感じています。

ファッションへの憧れ
菅野:僕が小さな頃はファッション通信という地上波の番組を観て、パリコレやミラノコレクションの華やかな世界に憧れていました。その中でもコムデギャルソンやイッセイミヤケなど日本人デザイナーが世界で活躍していて、あんな風になりたい!と憧れたものでした。
現在の若者には世界的コレクションや一流デザイナーの情報よりも、ファストファッションに関する情報やタレントのD2Cブランドの情報がファッションの情報として流れきているように感じます。この状況からまた日本から世界的デザイナーが出るのかな?と不安になったりします。
現在若い人達がどのような基準でファッションの情報を得たり、服選びをしたりしているように感じていますか?サスティナブルは広まるイメージがついていますか?
金井塚:SNSが普及しているのでインスタグラムなどを通して、好きなモデルさんが着ている服から影響を受けることが多いのではないでしょうか。 最近はモデルさんなどがサスティナブルファッションを発信していることも増えてきたので、そうした情報から影響を受けることもあると思います。
環境省としてのビジョン
菅野:価値観を変えていくこと、物選びの基準を変えることが今後の課題だと感じていますが、環境省としてどんなビジョンで考えていますか?
清家:2050年までのカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなどの長期のビジョンを目指していくにあたって、まずはこの5年、10年の取組がとても重要だと考えています。大事なのは1人1人の行動変容であり、ファッションや食、住まいなど日々の生活を見直すことがきっかけになって、社会全体を変えることに繋がればと考えています。
サスティナブルファッションは、この1年で急速に広がった印象があります。私たちが思っている以上に変化のスピードは早いのではないでしょうか。
また広告によって絶えず足りないと思わされている現代で、何が満足につながるかと考えると良 いものを長く使うこと、納得できるものを食べることが大事にされてきていると感じました。
コロナ禍によって、人々の価値観なども変化している印象があるので、今後、例えば良い服やストーリーに共感する服を買ってリペアしながら長く使い続けることなども含めて、生活の満足とサスティナブルが相互に高め合うることができるようになっていくのではないでしょうか。

<後半に続く>
環境省のサスティナブルファッション
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
THAT’S FASHION WEEKEND
